2004年02月01日(日) 回復中 [長年日記]
■ 村上龍/
悪魔のパス 天使のゴール (幻冬舎文庫)(村上 龍)
日本人の作家・矢崎とセリエAの日本人選手・夜羽冬次が薬物「アンギオン」を追い、巻き込まれていく。その薬物は試合前に飲み物として飲み、試合では活躍するのだが、その試合後に心臓麻痺で死んでしまうというもの。矢崎は夜羽冬次がアンギオンに巻き込まれないようにヨーロッパ、キューバへと関係者を訪ねる。
この小説は中田英寿のウェブに連載されていた。矢崎と冬次の会話も著者と中田英寿の会話に重なる部分が多いらしく、そういう点からもおもしろい。薬物「アンギオン」に纏わる部分はどちらかというと主ではなく、この小説のおもしろさは、サッカーの中継を見ているように緻密な試合の描写にある。複数の選手が競る部分では、想像の限界を超えるような部分もあって、気合を入れて読む必要がある。しかし、文章に曖昧さが無いのでいい。
2004年02月07日(土) まだまだ寒い [長年日記]
■ 舞城王太郎/
暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)(舞城 王太郎)
前作「煙か土か食い物」の続編。今作での主人公は三男の三郎。西暁町で事件が起こり巻き込まれていく。前作にまして事件自体が本編ではなくなっている。で、破綻度合いも増している。主人公の三郎は、前作の四郎が行動派の天才肌だったの比べて、自分の中に籠もりがちな小説家。
この作品の中でも、三郎の妄想なのか現実なのかが曖昧になっている。そのため、ミステリーというより文学になってきている。物語の中に矛盾がある。後で明かされるのだけど、読んでる最中はかなり混乱した。まぁ、途中から物語の整合性は、どうでもよくなるんだけど。長編だけど文体に勢いがあり読みやすかった。
2004年02月18日(水) 夜更かし [長年日記]
■ 東野圭吾/
白夜行 (集英社文庫)(東野 圭吾)
舞台は1970年代から90年代までの約20年間。物語の中心には一人の小学生がいる。大阪の下町で起こった殺人事件をを発端としてその容疑者の娘を中心として物語は進んでいく。
文庫本にして4cmという長編。伏線が張り巡らせらたミステリーですが、最後まで全貌が見えそうで見えない。中心にいる人物の心象についての記述があまり無いが、事実の積み重ねてその様子が読みとれてくるところが読み応えがある。湿っぽい暗さは無いけど、全編にわたって漂う暗さがいい。
2004年02月19日(木) [長年日記]
■ 金原ひとみ/
蛇にピアス(金原 ひとみ)
10代の女性ルイがスプリットタンをもつアマにその方法をを聞く場面から始る。そんなアマとその知り合いのピアス屋シバの3人の物語。
文章は読みやすく表現も鋭い。痛々しい場面など読んでいてそれが伝わってくる。ただ読み終わった時に何が主題だったのかという点が不安にさせる。そういうところを狙っているのか。印象に残ったのは、肉体改造と気持ちの関係、人を信じるという事の裏にあるものあたりか。激しい内容のわりに主人公ルイの行動に筋が通っているところに誠実さを感じる。文学的な小説には主題を求めてしまいがちだけど、それ自体がどうなんだろうと思ってしまうような小説。
2004年02月20日(金) [長年日記]
■ 綿矢りさ/
蹴りたい背中(綿矢 りさ)
高校一年の長谷川ははクラスに馴染めないまま一学期目を終えようとしている。そんな時、クラスに馴染んでいないもう一人「にな川」と出会う。にな川君は内に籠もりがちだけど、好きなモデルの事になると俄然真剣になる。そんな真面目な高校生たちの話。
この小説の登場人物には共感できる部分が多かった。主人公は、にな川君を通す事によって集団との距離のとり方をはかろうとする。集団から見ると孤立している人は何を考えているのかわからないけど、孤立している側の人は冷静に集団を見ている。この小説の場合、その孤立している人をさらに冷静に見ているのが、にな川君という事か。
あと、主人公とにな川君のやりとりの細部がおもしろかった。通勤電車の中で不気味に、にやけてしまった。細部を書き込んでいるなという印象。著者の前作「インストール」も高校生が主人公だったが、前作よりも登場人物たちを冷静に暖かい目で捉えているという印象を受けた。
2004年02月25日(水) [長年日記]
■ 田辺聖子/
ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)(田辺 聖子)
八編の短編が収録されている。主人公はいずれも女性。当然、どの主人公もそれぞれ個性的で性格も違う。だけど、どの小説にも底に暖かさがある。表題作の「ジョゼと虎と魚たち」は、足が悪いジョゼと、偶然彼女の世話をする事になった恒夫の物語。ジョゼの強気さが可愛く魅力的だ。どの登場人物も著者によって書かれると、陰にも陽にも魅力的な個性が表出する。
田辺聖子さんの本は初めて読んだけど、生きた大阪弁だなという気がした。私は京都育ちなので京都弁風の喋りなのだが、学生の頃大阪に出てきて、大阪弁はちょっと違って柔らかいと思ったのを思い出した。舞城王太郎の小説を読んだ時にも思ったけど、生きた方言はいい。
2004年02月29日(日) [長年日記]
■ 森博嗣/
四季(森 博嗣)
この本はノベルス版で既に出版されている「四季 春、夏、秋」と、新たに「冬 Black Winter」が納められている。愛蔵版と謳われるだけあり、装丁は箱入りのハードカバーでタイトルも黒に金文字となっている。ノベルス版4冊よりも若干高価だけど、その価値はある(私の場合、ノベルス版3冊も既に買ってしまっているんだけど…)。
四季の完結編である「冬」は四季自体の総括であると同時に、「すべてがFになる」「有限と微小のパン」の総括でもある。真賀田四季の言葉によって明かされる。本作は、他の3編に比べてさらに抽象的になっている。四季の人間と孤独についての考察がおもしろい。もう一度、四季を通して読んでみようかと思っています。

